本日、株式会社晋遊舎 代表取締役社長 西尾崇彦殿あてに、以下の抗議と要求を送りました。要求に対する回答が送られてきたら、またご報告いたします。
株式会社晋遊舎
代表取締役社長 西尾 崇彦 殿
「差別反対東京アクション」の石野雅之と申します。「差別反対東京アクション」は、東京や各地で行われてきたヘイト・スピーチ(差別扇動表現)デモや様々な差別言動について、これらを社会から無くすべく活動をしている市民団体です。
以下、貴社が刊行した『普遊舎ムック「マンガ大嫌韓流」(作:山野車輪 原作協力/丹波秀明)』に対する抗議と要求をお伝えします。
「マンガ大嫌韓流」は、「嫌韓流シリーズ」最新作として御社より発行された書籍です。過去に出された「マンガ嫌韓流」も幾多の虚偽記載を含む極めて差別的な内容として、各方面から厳しい批判を浴びてきました。
今作はさらにそれに輪をかけた差別扇動本として、すでに多くの社会的な批判を浴びています。全7話とエピローグからなる内容は、虚偽(デマ)記載に満ちたものです。
第1話「慰安婦像と反日プロパガンダ」は、社会科学的に認知されたソースを示すこともなく、それゆえに虚偽と悪意に満ちたものとなっています。第1話に関する批判は、現地取材を行った小山エミ氏がWebページに簡潔にまとめられているので是非ご覧ください。
またこの漫画の情報ソースになっていると見られる、GAHT:「歴史の真実を求める世界連合会」による慰安婦像設置に反対する訴訟に関しては、裁判所がスラップ裁判(SLAPP : Strategic Lawsuit Against Public Participation・市民参加を妨害するための戦略的訴訟)であると認定しました。SLAPPとは批判的な言論をやめさせようとして起こす恫喝的訴訟とも呼ばれるもので、米国の反SLAPP法はその適用基準も極めて厳しいものです。それにも関わらず、GAHTの主張(「マンガ大嫌韓流」に記載されている内容もこの主張とほぼ同じ)は正当性をもたない、言わばいちゃもんとして全面的に退けられています。これは、2014年8月の判決であり、「マンガ大嫌韓流」の発行以前の事実であることも、重要な点として指摘しておきます。
虚偽記載という意味では、第3話 「慰安婦問題の成り立ち」がとくに酷い内容となっています。これらの主張は、国内においても国際的にも到底通用するものではないのは自明の理です。慰安婦の実態については、元日本軍将兵・軍属が手記や証言のなかで慰安婦に言及している口述資料(Oral History)というものがいくつも存在しています。こちらのWebページはそれら口述資料をまとめた一例です。是非ご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/dj19/20121213
また、元自衛官である泥憲和氏が、数々の資料を元に慰安婦に関する論考をまとめられています。こちらのwebページも是非ご覧ください。
http://members.jcom.home.ne.jp/samest/contents/TheFactOfComfortWomen_byDORO.pdf
第2話「告げ口外交とディスカウントジャパン運動」の記述も独断と偏見に満ちたものであり、何ら科学的根拠を示すことなく、以下の記述にあるように読者を排外主義、ひいては戦争に誘引するものであると言えます。
「韓国とはそもそも李承晩率いる反日テロリスト集団によって建国された国だ」「反日は建国の理念であり韓国人のアイデンティティなんだ」P52
「敵性外国人でテロリスト予備軍である在日韓国・朝鮮人を日本から叩き出すのよ!」P71
「日本人は自存自衛のため、また韓国の暴走を止めるため・・・覚悟を決めて戦うしかない」P73
さらに第5話「『強制連行神話』と『在日特権』」には以下のような記述があります。
「在日という反日外国人の集団がこの日本に55万人も存在しているという恐ろしい現実」P142
「私たち嫌韓流同好会は日本社会に害をなす不逞在日を今こそ日本から叩き出すことを提唱したいと思います!」P143
「韓国人の口から排出されるものはCO2とキムチ臭と嘘だけなのよ。」「韓国人は今すぐ呼吸するのを止めてほしいわ」P146
「被害者のふりをした「当たり屋」「ゆすりたかり集団」それが在日韓国人の正体なのよ」P149
「在日特権の存在を否定する在日は即刻、祖国に帰りなさい!」P156
「日韓戦争が勃発した場合、在日が日本国内で武装蜂起する可能性が非常に高い」P160
これらは出自や民族的属性をひとくくりにして、人格を否定し、他者の心身を攻撃するヘイト・スピーチ(差別扇動表現)そのものです。
第6話「朝日新聞と従軍慰安婦問題」には、民族差別のみならず特定個人への誹謗中傷も繰り広げられていることも看過できません。
「植村隆には反日に手を染めた者は悲惨な末路を遂げるという教訓を世に知らしめるための生贄になってもらおう」P199
引用してきたこれらの記述はごく一部にすぎませんが、差別扇動、ひいてはジェノサイドを誘引するものであることは疑う余地はありません。あろうことかP166には、「攻撃こそ最大の防御、君たち在日が謝罪するまで殴るのをやめない」のセリフと共に、在日コリアンと見られる登場人物を殴り続けるシーンも描かれています。私たち日本人には、1923年の関東大震災時に「朝鮮人虐殺」が行われたという歴史があり、この歴史を振り返るからこそ、このような記述を見逃すことは出来ません。
エピローグで「真の日韓友好への道を」との表記で締めながらも、それまでの内容は民族蔑視にまみれたものであり、独善的で排外主義に基づく内容となっています。繰り返しますが、「マンガ大嫌韓流」の内容は差別を扇動するものであり、社会に憎悪を拡散する役割を担っていると言っても過言ではありません。
これら一連の表現を「漫画だから、フィクションだから」などと言い逃れすることはできません。作者、原作協力者の意図であることはもちろんのこと、これらの欺瞞、デマ、誹謗中傷を盛り込んだ作品が出版に値すると判断した貴社の、社会に対する姿勢が込められているものと判断せざるを得ません。
日本国憲法 第21条で言論の自由は保障されているとは言え、それは他者の人権(権利)を尊重する上で成立する概念であることは、近代法の考え方から言うまでもないことです。また既に日本が批准している「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の趣旨に照らしても、「マンガ大嫌韓流」は差別を助長し扇動する刊行物であると言っていいでしょう。
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約
第4条
締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。
本書の奥付には、次のような「ご注意」と題する記述があります。
「また、セリフの一部に差別的なニュアンスを感じられる方がいらっしゃるかもしれませんが、作者および出版社には、差別の意図はまったくございません。この作品は「お互いを知るところから真の友好が始まる」という信念に基づいて描かれており、私たちがこれを出版致しますのは、作品の根底に流れる「日韓友好」「差別反対」「歴史再考」などのテーマを広く社会に訴えることに意義があると考えたからです。」
「差別的なニュアンスを感じる読者」の存在を認めつつも「差別の意図はまったくない」と強弁する姿勢はそもそも矛盾であり、差別の本質を無視した倒錯した「理屈」にすぎません。また、
「ごく少数のまともな韓国人には対話のドアを開けておくべきかも」「活動の大義名分として一応アリバイ的に友好を掲げておくことには特に反対はしないわ」P251
などの記述は、「日韓友好」と記述することそのものがまさにアリバイ的であり、「日韓友好」という言葉を使いつつその意図が真逆であることは疑う余地はありません。
明らかな虚偽をはじめとして、科学的検証にも到底耐えられない様々な記述、そして民族差別とジェノサイド扇動、戦争誘引に道をひらく「マンガ大嫌韓流」は、「差別と憎悪」を世に拡散するものです。私たちは「マンガ大嫌韓流」の作者・原作協力者ならびに出版元である貴社に対し強く抗議します、また、貴社に対し次の2点を要求いたします。
1.貴社は「マンガ大嫌韓流」の内容を精査し、虚偽の記載について訂正と謝罪を貴社Webページに掲載すること。
2.「マンガ大嫌韓流」のような差別扇動本が社会へ与える影響を自覚し、言論出版界の一員として今後再びこのような書籍の出版を行わない旨の宣言を、貴社Webページに掲載すること。
私どもからの抗議を真摯に受け止め、2項目の要求については2015年5月1日までに誠意ある回答を送るよう求めます。