2014/8/29に出された、国連人種差別撤廃委員会から日本への勧告素案(日本語訳)

2014年8月29日に発表された、国連人種差別撤廃委員会における日本国からの定期報告に対する調査最終見解書を、差別反対東京アクションにて翻訳したものです。翻訳に関する誤りは、差別反対東京アクションの責に帰します。なお訳文中の「締約国」は日本を指します。

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CERD/C/JPN/CO/7-9 勧告素案(未改訂)

配布: 一般
2014年8月29日
原文:英語

人種差別撤廃委員会による
日本の第7回~9回定期報告*に関する調査最終見解

1. 委員会は、2014年8月20日及び21日に開催された第2309回及び第2310回会議(CERD/C/SR.2309 and 2310)において、日本の第7~9回報告(CERD/C/JPN/7-9 )を審査した。その後、2014年8月28日に開催された第2320回及び第2321回会議において、下記の最終見解を採択した。

A. 序論

2. 委員会は、条約特有の報告ガイドラインに準拠した形で締約国が一文書に編纂した第7~9回定期報告が適時に提出されたことを歓迎する。委員会としては、書面形式で提出された追加情報と共に、大規模な代表団によって期間中提供された口頭でのプレゼンテーション・質問への回答も含めて言及に及ぶものである。

B. 肯定的側面

3. 委員会は、締約国が前回の定期報告以降行った人種差別撲滅に寄与するであろう行政・政治的措置、特に2009年12月採択「人身取引対策行動計画」に注目する。

4. 同時に委員会は、前回の定期報告以降、日本が以下に挙げる国際的条約を批准したことに関心をもって留意する。
a)強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(2009年7月23日)
b)障害者の権利に関する条約(2014年1月20日).

C. 懸念点及び勧告

5. 委員会としては、2010年の最終見解において、締約国は「本最終見解において提示された項目全てについて取組みを行う」ことを要請された、という認識である。が、2011年発行の締約国によるフォローアップ文書にある通り、パラグラフ12、20、21に示された3つの懸念点についての回答以外、2010年の最終見解の内容に言及した箇所は存在しなかった。

委員会は、締約国が次回報告書において、本文書内の最終見解の全てについて対応して言及することを慫慂する。

人口の民族構成

6. 委員会は、締約国が報告書及びコアドキュメント内で提示した人口民族構成データを認識しつつも、特に日本国籍を持たない者を含む社会的弱者グループについて、データが包括的なものでないことを遺憾に思う。結果、委員会としては、締約国におけるそれらグループの置かれる状況を正確に評価することができない(第1条)。

改訂報告ガイドライン(CERD/C/2007/1)のパラグラフ10~12と本条約第1条に関わる一般的勧告24(1999)及び一般的勧告30(2004)日本国籍を持たない者に対する差別、に関連し、委員会は締約国に以下の事項を勧告する:

(a) 社会的弱者グループについて、一般に話されている言語、母国語あるいは社会調査からの情報と併せ、人口の多様性を示す他の指標について調査を行う。
(b) また、社会経済的な指標についての包括的で信頼性の高い最新の統計データを収集し、社会内の全セグメントそれぞれが持つ特別なニーズに対応する方策を定義するべく移民・難民を含む国籍、民族的出身ごとの分析を行い、本条約内に銘記される権利が日本で守られているかどうかについて委員会がより正確に評価できるようにする。

人種差別の定義

7. 委員会は、平等と反差別の原則を規定する日本国憲法第14条のパラグラフ1に記される人種差別の定義が、国籍や民族出身、肌の色、世系などの観念を含まず、よって、本条約第1条の要件を完全に満たしていないことを懸念している。同様に、国内法において、人種差別についての十分な定義が欠如している(第1条、第2条)。

委員会は、締約国が、国籍や民族的出身、肌の色や世系なども包括的に考慮した本条約パラグラフ1第1条に完全に準拠する人種差別についての定義を国内法に導入することを勧告する。

人種差別を禁ずる特定的且つ包括的法律の欠如

8. 人種差別を禁ずる法的規定も留意する一方、委員会としては、締約国において人種差別的な行為や事象が継続的に発生していること、また、被害者が人種差別に対する適切な法的救済を求めることを可能にする人種差別を禁ずる特定的且つ包括的な法律を、締約国が未だ制定していない点に懸念を抱いている(第2章)。

委員会としては、締約国が、人種差別の被害者が適切な法的救済を求めることを可能にする、本条約第1条、第2条に直接的また間接的に準拠した人種差別を禁ずる特定的且つ包括的な法律を制定することを要請する。

国内人権機関

9. 委員会は、締約国が未だパリ原則に完全に則った国内人権機関を設置していないことに懸念を抱いている。この件については、人権委員会設置法案が2012年の衆議院の解散により廃案になったこと、また、国内人権機関の設置に向けての進展が非常に遅々としたものであることを認識している(第2条)。

委員会は、本条約施行のための国内人権機関設置に関する一般的勧告17(1994)を踏まえ、締約国に、国内人権委員会設置法案の審議を速やかに再開すること、また、独立した国内人権機関という観点でその設立導入を促進させるべく、パリ原則(国連総会決議:48/134)に完全に則った形で、十分な資金及び適切な人員、また、人種差別についての訴状に対応するという任務をその機関に与えることを勧告する。

第4条に準拠した法規定

10. 委員会による本条約第4条(a)及び(b)への留保範囲の縮小提言について締約国が表明する立場、それについての論拠については留意をするものの、委員会としては締約国の留保継続の決定を遺憾に思う。人種差別的思想の流布や表明は名誉棄損及び刑法上その他の違法行為を構成しうる中で、委員会としては、締約国の法律が本条約第4条の全条項に完全に準拠したものではないことを懸念している。

委員会としては、締約国が自らの立場を再度検証し、第4条(a)及び(b)の留保の撤回を検討することを奨励する。一般的勧告15(1993)と一般的勧告35(2013)「人種主義的ヘイトスピーチと闘う」の中にある通り、委員会は第4条の条項が効果的に実施されるよう、締約国が法の改訂、特に刑法、を行うための適切な方策を講じることを勧告する。

ヘイトスピーチ・憎悪犯罪

11. 委員会は、締約国において、右翼活動者、あるいは、外国人及びマイノリティー(特に韓国人)に対して人種差別的デモや集会を行う集団によるヘイトスピーチ(市民煽動や緊迫性高い脅し含む)が広がりを見せているという複数の報告に懸念を抱いている。委員会はまた、公人や政治家によるヘイトスピーチに相当あるいは憎悪を煽動するような発言についての報告についても憂慮しており、更に、集会の場あるいはインターネットを含むメディアにおける、ヘイトスピーチと人種差別的脅し及び憎悪の伝播についても懸念している。更にいえば、そのような事象の発生において、締約国によって適切な調査や追及が必ずしも行われていないことを懸念している(第4条)。

一般的勧告35(2013)「人種主義的ヘイトスピーチと闘う」に照らしても、委員会は人種差別的ヘイトスピーチの監視及び撲滅の方策が抗議の意思の表明権利を取り上げる口実となってはならないと認識している。しかしながら委員会としては、人種差別的ヘイトスピーチや憎悪犯罪からの保護を必要とする社会的弱者グループの権利を擁護する重要性を、締約国にリマインドする。然るに委員会は締約国が以下に挙げられる点について適切な方策を取ることを勧告する:
(a) 集会の場における人種差別的暴力や憎悪の煽動、また憎悪や人種差別の表明について毅然とした対処を実施する
(b) インターネットを含むメディアにおけるヘイトスピーチの根絶のため適切な対策を講じる
(c) 調査を行い、適切な場合には、そのような言動の責任の所在する組織及び個人を起訴する
(d) ヘイトスピーチの発信及び憎悪への煽動を行う公人及び政治家について、適切な制裁措置を実行する
(e) 人種差別的ヘイトスピーチの根本的原因についての取り組みを行い、人種差別に繋がる偏見を根絶し、国家・人種・民族グループ間の相互理解や寛容、友愛の情を育むための指導・教育・文化・情報発信における方策の強化を行う。

移民労働者

12. 委員会は、雇用及び住宅入居の機会において移民労働者が不平等な扱いを受けていることを懸念している。委員会としてはまた、外国人技能実習生(技能インターン)が適正な賃金の不払い、過度な長時間労働、搾取や虐待にあたる様々な事象によって権利を侵害されている点についても懸念を抱いている(第5条)。

委員会は、締約国に、雇用及び住居入居の機会において移民労働者が晒される人種差別を断固として根絶し、移民労働者の雇用状況を改善すべく、委員会による一般的勧告30(2004)「日本国籍を持たない者に対する差別」を踏まえて法整備を強化することを勧告する。委員会としてはまた、外国人技能実習生の労働権を守るため、外国人技能実習プログラム改編のための措置を講じることを締約国に勧告する。

日本国籍を持たない者の公職就労権利

13. 締約国代表団による説明は留意するものの、委員会は当局による公権力の行使が 必要でない公職の就労権利獲得において、日本国籍を持たない者が制限下及び困難な状況 に置かれている点について懸念を表明する。委員会では特に、家庭裁判所の調停処 理を行う調停委員の職について、日本国籍でない者が依然としてその職に就く 権利を有さない点、及びそれについての締約国の姿勢について懸念している (第5条)。

一般的勧告30(2004)「日本国籍を持たない者に対する差別」に照らし、委員会は締約国が、日本国籍を持たない者が家庭裁判所で調停員として活動できるよう、その立場を見直すことを勧告する。委員会はまた、日本国籍を持たない者の公職への参画を促すため、当局による公権力の行使を必要としない公職について日本国籍を持たない者の参加を認めることを含め、締約国が、法的また行政的制限を取り除き、締約国に長期間居住している日本国籍を持たない者にしかるべき権利を与えることを勧告する。委員会は更に、日本国籍を持たない者の公職への参画について示す包括的、また要素分解されたデータを次回報告書の中で提示することを締約国に勧告する。

日本国籍を持たない者の国民年金受給権利

14. 国民年金法が国籍に関わらず日本に居住する全ての人々を網羅するものである点について留意する一方で、委員会としては、1982年国民年金法から国籍条項が外されたにも関わらず、1986年に年齢や居住についての要件を加えられる改訂と相まって、1952年に日本国籍を失った日系韓国人を含む、多数の日本国籍を持たない者が蚊帳の外に置かれ、未だ、国民年金の年金給付の権利を有さないまま取り残されている可能性が存在するという点に懸念を表明する。委員会はまた、国民年金法の障害基礎年金においても1982年の段階で国籍条項が取り除かれたにもかかわらず、1982年1月1日以前に国籍条項ゆえに年金給付資格を剥奪された日本国籍を持たない者、及び、同1982年1月1日時点で二十歳を超えていた日本国籍を持たない障害者について、未だ障害基礎年金受給の権利を付与されないまま取り残されている点を懸念する(第5条)。

一般的勧告30(2004)「日本国籍を持たない者に対する差別」に照らし、委員会は締約国に、年齢制限ゆえに国民年金法の給付適用から外されたままになっていた日本国籍を持たない者、特に日系韓国人について、年金給付の権利を付与することを勧告する。委員会はまた、現状、障害基礎年金に申請する資格を持たない日本国籍を持たない者にその権利を与えるべく、法規定を改訂することを締約国に勧告する。

日本国籍を持たない者の公共の場・施設へのアクセス権利

15. 委員会は、レストラン、ホテル、公衆浴場、店舗など一般人の使用を目的とされている場所や設備にアクセスする権利が、本条約第2条、第5条に違反して、日本国籍を持たない者が人種や国籍に基づき依然として拒否されていることに懸念を表面する(第2条及び第5条)。

委員会は、締約国に、日本国籍を持たない者が公共の場へのアクセス権利について差別を被らないよう適切な処置を講じること、特に法規定の効果的な適用を実現することを勧告する。委員会はまた、締約国に、そのような差別的行為についての調査を行い、制裁措置を取ること、関連立法の要件についての社会的認識改善強化することを勧告する。

人身売買

16. 人身売買撲滅について講じられた措置について締約国代表団から提供された情報について留意する一方で、委員会としては、締約国においてマイノリティ女性の人身売買(特に性的搾取の目的で)が根強く存在することを懸念する。委員会はまた、締約国における人身売買の現状の詳細評価を可能にするデータが欠如している点についても懸念を抱いている。委員会は更に、人身売買に対する具体的な法規定についての情報、及び、加害者について行われる調査、起訴、制裁措置にまつわる事例が欠如している点についても懸念を表明する(第5条)。

委員会としては、締約国に以下の事項を勧告する:
(a) 人身売買について、具体的な法規定を採択する
(b) 移民女性を含む人身の売買撲滅についての努力を強化し、日本国の「人身取引対策行動計画」に照らし、根源的原因に対処することで予防措置を講じる。
(c) 被害者に向けて、精神面・医療面でのケアサービスと並行し、援助や保護、一時的居住形態、リハビリテーション機会やシェルターを提供する。
(d) 加害者について、迅速かつ徹底的に調査、起訴、懲罰を行う。
(e) 警察官、国境警備兵、入国管理官を含む全ての法執行機関の当局者に、人身売買の被害者の特定、援助、保護のための専門研修を施す。
(f) 自国における人身売買の状況、特にマイノリティグループについて、委員会への報告を行う。

外国人及びマイノリティ女性に向けた暴力

17. 委員会は、外国人、マイノリティ、先住民に属する女性に対する根強い暴力についての情報に懸念を表明する。委員会としては、特に、2012年に改訂された出入国管理及び難民認定法(略称:入管法)の条項22-4第I章において、日本国籍者あるいは永住権を保有する外国人と婚姻関係を結んだ外国人女性が「配偶者としての活動を6ヶ月以上行わないで在留する」場合、当局がその在留資格を取り消すことができると規定されている点を懸念する。これらの条項は、配偶者から家庭内暴力を受ける被害者女性が虐待関係から身を離し助けを求めることを阻害する可能性を生む(第2条及び第5条)。

一般的勧告25(2000)「人種差別のジェンダーに関連する側面」、及び、一般的勧告30(2004)「日本国籍を持たない者に対する差別」に照らし、委員会は、締約国に、移民、マイノリティ、先住民に属する女性に対する暴力問題について、被害者女性が即時に活用できる救済や保護を備えると共に、彼女たちに対するあらゆる形の暴力について起訴・制裁措置を講じ、効果的で適切な対処を実現することを勧告する。締約国はまた、在留資格についての法規定を見直し、日本国籍者あるいは永住権を持つ外国人と結婚した外国人女性について、離婚や離縁においても国外追放とならないよう、また、現実問題として法規定により女性が虐待関係に留まることを止むなくされることがないようすべきである。

従軍慰安婦

18. 委員会は、第二次世界大戦中に日本軍によって性的搾取を受けた「従軍慰安婦」問題についての解決努力について、締約国代表団から情報提供を受け、それを留意している。委員会は同時に、締約国によって1995年に設立されたアジア女性基金が提供した補償と、2001年日本の首相が表明した謝罪を含む、日本政府による謝罪表明についての情報を認識している。生存している「従軍慰安婦」の方々が蒙る人権侵害は、彼女たちの裁きと賠償を求める権利が完全に実現されない限り止むことがなく、委員会としては多くの「従軍慰安婦」経験者は、主張を認められることも、謝罪されることも、何らかの補償を提供されることもないままであるという点について懸念を表明する(第2条、第5条)。

委員会は、締約国に以下の事項について即時に行動を起こすことを要請する:
(a)日本軍による従軍慰安婦の人権侵害についての調査を完了させ、関わる人権侵害の責任を有する存在を裁判にかける。
(b)従軍慰安婦問題について、誠意ある心からの謝罪及び生存している全ての元従軍慰安婦の方々あるいはその家族に対して十分な補償の提供を含む、包括的、公正で持続的な解決策を遂行する。
(c)従軍慰安婦の存在について否定する、あるいは誹謗中傷するあらゆる試みを糾弾する。

朝鮮学校

19. 委員会は、以下に挙げる状況を含む締約国の法規定及び政府活動によって、締約国における韓国・朝鮮系の子どもたちの教育を受ける権利が阻害されていること懸念する:a)朝鮮学校を高等学校就学支援金対象から除外とされている b) 自治体による朝鮮学校向け財政支援の割り当ての継続的縮小あるいは差し止め(第2条及び第5条)。

一般的勧告30(2004)「日本国籍を持たない者に対する差別」に照らし、委員会としては、前回の最終見解パラグラフ22で示した「締約国は自国の領土内に居住するあらゆる子どもが学校入学について障害に直面しないよう、教育を受ける機会の提供においていかなる差別もないことを確実なものとする」という勧告をここに繰り返す。委員会は、締約国がその立場を見直し、自治体による朝鮮学校への資金提供を再開させ、また、高等学校就学支援金からそれぞれの朝鮮学校に見合った補助金額を提供することを推奨する。委員会はまた、締約国が、ユネスコによって1960年に採択された教育差別禁止条約への加盟を検討することを勧告する。

アイヌ民族についての状況

20. 委員会としては、締約国によるアイヌの人々の権利を守り促進する努力を留意する一方で、以下に挙げられるような締約国によって構築された方策についての欠陥を懸念する: a) アイヌ政策推進会議及びその他諮問機関におけるアイヌ代表者の数の少なさ/不十分さb) 北海道の外に暮らす人々を含め、アイヌ民族の人々とその他の人々の間に存在し続ける、人生における様々な領域における埋まらない溝(特に教育・雇用・生活水準において)c) 土地や自然資源についてのアイヌの人々の権利保護についての措置の不十分さ、及び、彼らの文化及び言語についての権利確立実現に向けての解決策策定の進捗の遅さ(第5条)。

一般的勧告23(1997)「先住民族に関する一般的勧告」及び、先住民族の権利に関する国連宣言を踏まえ、委員会は締約国に以下の事項を勧告する:
(a)アイヌ政策推進会議及びその他諮問機関におけるアイヌ代表者の数の増加を検討する。
(b)アイヌ民族とそれ以外の人々の間に存在する雇用・教育・生活水準関連の格差縮小のための施策推進を強化し、その実行を加速させる。
(c)アイヌの人々の土地及び自然資源に関する権利保護について適切な策を講じ、アイヌの文化及び言語についての権利確立を目的とする措置の実施を強化する。
(d)関連する計画及び政策の再調整を可能にするべく、アイヌの人々の状況についての包括的調査を定期的に実施する。
(e)委員会からの前回最終見解のパラグラフ20でも勧告された通り、独立国における原住民及び種族民に関するILO169号条約(1989年)の批准を検討する。

琉球・沖縄問題

21. 委員会としては、ユネスコが沖縄の固有の民族性、歴史、文化、伝統を認めているにも関わらず、締約国が琉球・沖縄の人々を先住民と認識しない姿勢を遺憾に思う。琉球について、締約国が沖縄振興特別措置法を根拠に措置を講じていることは留意しつつ、委員会としては、彼らの権利保護について琉球(沖縄)の代表者との十分な対話が なされていない点を懸念する。委員会はまた、消滅の危機に瀕している琉球語の促進及び保護のための十分な対策がなされていないという点、また、琉球(沖縄)の人々の歴史と文化が正確に学校の教科書に反映されていないという点の情報に懸念を表明する(第5条)。

委員会は、締約国が立場を見直し、琉球(沖縄)の人々を先住民として認識することを検討すると共に、彼らの権利を守るための確固たる対策を講じることを勧告する。委員会はまた、締約国が、琉球(沖縄)の人々の権利の促進と保護のため、彼らとの協議を深めることを勧告する。委員会としては更に、締約国が琉球語を消滅の危機から守るための方策導入をスピードアップし、沖縄の人々の琉球語での教育を促進し、学校カリキュラムで用いられる教科書に沖縄の人々の歴史と文化を加えることを勧告する。

部落民の状況

22. 委員会は、部落民を世系(descent)を根拠に本条約の適用外に置く締約国の見解を遺憾に思う。前回の最終見解でも述べられた通り、締約国が未だ「部落民」についての統一された定義を適用していないことが懸念点として存在する。委員会としては、2002年の同和問題に関する特別措置法終了に際して、締約国によって実施された、部落民に対する差別対策を含む具体的措置について、その影響を評価できる情報及び指標が欠如している点に懸念を抱く。委員会はまた、部落民と部落民以外の人々との間に根強く残る社会経済的格差について懸念を表明する。委員会は更に、部落民に対する差別目的で行われている可能性のある戸籍制度への不正アクセス乱用の報告を受けて、その状況に懸念を持っている(第5条)。

『世系』という文言についての一般的勧告29(2002)を踏まえ、委員会は「世系」を根拠とする差別は本条約で完全に網羅されるものであることを再確認する。委員会としては、締約国がその立場を見直し、部落の人々と話し合いを持つ中で「部落民」という言葉についての明確な定義を採用することを勧告する。委員会はまた、2002年の同和問題に関する特別措置法終了における具体的措置についての情報及び指標(特に部落民の生活水準について)を提供することを勧告する。委員会としては更に、締約国が法規定を効果的に適用し、部落民が戸籍情報に不正アクセスされ差別行為に晒されることから彼らを守ること、戸籍情報への不正アクセス発生においては、その全てについて調査を行い、加害者を懲罰することを勧告する。

難民及び難民申請者

23. 委員会は、難民及び難民申請者、特に非アジア系、アフリカ系、が職場、学校及び公共機関や地域コミュニティにおけるやり取りで直面する人種差別についてのいくつかの報告に懸念を表明する。委員会はまた、難民申請者が長期間に渡って不適切な環境である拘留施設に拘禁される点について懸念を表明する。日本の国籍法において無国籍状態を未然に防ぎ、削減させるための条項が存在することには留意するものの、委員会としては、締約国が未だ無国籍特定手順を構築していない点を懸念する。また、在留許可を持たない無国籍者の中に、無期限の国外追放前拘束に直面する者や、人権侵害の危険に晒されている者がいる点についても懸念をもって留意する(第5条)。

一般的勧告22(1996)「難民及び避難民について」、及び、一般的勧告34(2011)「アフリカ系の人々に対する差別について」を踏まえ、委員会は締約国が以下の事項にたいして対策を講じることを勧告する:
(a)差別のない状態を促進し、難民及び難民申請者についての自治体及びコミュニティの理解を促す。
(b)難民申請者の拘留は最後の手段としてのみ適用されること、また可能な限り短い期間に限って用いられることを保証する。締約国は、法に規定している通り、拘留に代わる対策を優先すべきである。
(c)無国籍状態特定手順を構築し、無国籍者の特定と保護を適切な形で実現する。 締約国は更に、無国籍の人々の地位に関する条約(1954年)、無国籍の削減に関する条約(1961年)の批准を検討すべきである。

少数民族言語・教科書

24. 締約国により提供された情報を留意する一方で、委員会としては、締約国がマイノリティもしくは先住民族に属する子供たちについて、彼らが自身のマイノリティ言語で、あるいはその言語について教育を受けることを促進する適切な施策を取れていないことを遺憾に思う。委員会は、本条約によって保護される日本に存在する各種グループの歴史、文化、功績を反映するために既存の教科書を改訂する上で、その手順についての情報が欠如している点を懸念する(第5条)。

委員会は、アイヌや琉球(沖縄)を始めとするマイノリティや先住民に属する子どもたちがマイノリティ言語で、あるいはその言語について教育を受けることを促進するよう締約国に勧告する。委員会は、本条約によって保護される日本に存在する各種グループの歴史、文化、功績を反映していない教科書を改訂することを締約国に勧告する。

イスラムコミュニティメンバーの民族-宗教プロファイリング

25. 委員会は、締約国の捜査当局者が国外出身イスラム系の人々についての調査活動報告が民族プロファイリングにあたりかねない点を懸念として表明する。委員会としては、ある特定の民族、あるいは民族宗教グループに属しているというだけの理由で個人についてのセキュリティ情報を体系的に収集する行為は、深刻な差別行為に相当すると判断する(第2条及び第5条)。

委員会は、捜査当局の人々がイスラム系人民の民族及び民族宗教プロファイリングに頼ることがないよう締約国に要請する。

寛容な姿勢と相互理解の促進

26. 2002年策定の人権教育及び促進に関する基本計画を始めとする、相互理解のコンセプトを基盤とした人権教育と認識向上のための活動を含む、締約国による人種差別及びステレオタイプへの当てはめ根絶のための努力に留意しつつ、委員会としては、外国(人)嫌悪あるいは日本国籍を持たない者や先住民に対する蔑視的姿勢がマスメディア含め増加傾向にあるという幾つかの報告に懸念を表明する(第2条及び第7条)

委員会は、締約国に以下の事項の実施を勧告する:
(a)一般への啓蒙、認知向上キャンペーンについての努力を倍増する。
(b)学校カリキュラムへの人権教育の統合を継続する。
(c)人種間の調和、マスメディアにおける寛容な姿勢を促進し、メディアやジャーナリストに向けた人権についての教育を施す。
(d)相互理解、及び、同じ領土に暮らす異なる民族グループ間での寛容的姿勢の醸成を実現するための活動を強化する。

D. その他の提言

その他条約の批准

27. 委員会は、全ての人権が不可分であることを踏まえ、締約国がまだ批准していない国際人権条約、特に、人種差別の問題に直接関係する規定がある条約、例えば、すべての移民労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約、及び、2011年に策定された国際労働機関の家事労働者条約(第189号)の批准の検討を慫慂する。

「ダーバン宣言及び行動計画」のフォローアップ

28. 委員会は、2009年4月にジュネーブで開催されたダーバン・レビュー会議の成果文書と共に、2001年に採択された「ダーバン宣言及び行動計画」を国レベルで実施するための行動計画及び他の施策に関する具体的情報を次回報告書に含めることを求める。

市民社会との対話

29. 委員会は、締約国が次回報告書を取りまとめる中で、人権保護、特に人種差別撲滅について活動を行う市民社会組織との協議・対話を深めることを勧告する。

本条約第8条の改正

30. 委員会は、1992年1月15日に第14回締約国会合において採択され、1992年12月16日の国連総会により決議37/111をもって承認された、本条約第8条6の改正を締約国が批准することを勧告する。

本条約第14条の宣言

31. 委員会は、個人通報を受理し検討する委員会の権限を認めるという本条約第14条に規定する選択的宣言を行うことを検討するよう締約国に慫慂する。

勧告のフォローアップ

32. 本条約第9条1及び改正手続規則65に従って、委員会は締約国がこの最終見解の採択後1年以内に、上記パラグラフ17、18及び22に含まれる勧告のフォローアップに関する情報を提供することを求める。

特に重要な勧告

33. 委員会は、上記パラグラフ11、19、21、23に含まれる勧告が特に重要であることに締約国の注意を喚起するものであり、次回定期報告においてこれらの勧告を実施するためにとられた具体的施策に関する詳細な情報を提供することを求める。

情報の公表・流布

34.委員会は、締約国の定期報告を提出後直ちに公衆が入手可能なものとすること、及び、これらの報告に関する委員会の見解を、公用語、及び適切な場合には他の一般に使用されている言語で同様に公表することを勧告する。

次回報告書の準備

35. 委員会は、第71会期で委員会が採択した委員会特定文書のガイドライン(CERD/C/2007/1)を考慮しつつ、第10及び11回定期報告書を2017年1月14日までに一つの文書として編纂し提出すること、また、この最終見解の中で取り上げられた全ての点に取り組むことを勧告する。委員会はその際、締約国に対して、委員会特定文書については40ページ、共通のコア・ドキュメントについては60-80ページというページ上限を考慮することを要請する。(HRI/GEN/2/改訂版6、第I章、19段落の統一文書ガイドライン参照)

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